【医療従事者向けに詳しく解説】心房細動について

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心電図 心房細動

近年、高齢化に伴い心房細動発症患者は増加しています。単純計算による発症率は1〜2%ですが、年齢とともに発症のリスクは上昇し、80歳以上の実に10%が心房細動を発症しています。

心房細動は症状を伴わないことも多く、ともすれば放置されてしまっているケースも少なくありません。心房細動の何が怖いかというと、心房内の血栓形成による脳梗塞です。これが寝たきり患者を増加させて医療介護負担に繋がります。

脳梗塞になるとみんな寝たきりになっちゃうの?

脳へのダメージの程度によるのでもちろん一概には言えません。詰まった部位や梗塞範囲、時間の経過、血流再開の有無などで予後が決まってきます。
脳梗塞はラクナ梗塞など他にも分類がありますが、心房細動の血栓形成による脳梗塞(心原性脳梗塞)が最も重症化および後遺症への影響を及ぼします。

ここでは、心房細動の一般的な知識だけではなく、循環動態や電気生理学的要素も含めてお話をしたいと思います。なるべく易しい説明に努めますが、そもそもの内容がマニアックであるのでご了承ください。

目次

AF:atrial fibrillation 心房細動の分類

考え方によっていくつかの分類があります。
最初に、持続時間の経過による分類を挙げます。持続時間の有無は治療の難易度に影響するので臨床的に重要な分類となります。

  • 発作性心房細動:paroxysmal AF (持続時間が7日以内)
  • 持続性心房細動:persistent AF (持続時間が7日以上)
  • 慢性心房細動:chronic AF (発症から1年以上)

ガイドライン上では、慢性心房細動でも長期持続心房細動と永続性心房細動に分類しています。
長期持続性心房細動は、1年以上継続している心房細動のうち洞調律へ戻る可能性があるものをいいます。
一方で永続性心房細動は、洞調律に戻る可能性のないものを指します。

弁膜症由来の心房細動と非弁膜症由来の心房細動という分類もあります。これは歴史的な分類といえるかもしれません。なぜなら、2000年より以前はリウマチ熱からの弁膜症による心房細動が多かったのですが、現在はむしろ非弁膜症性の心房細動が多くなっております。衛生環境が整っている現代ではリウマチ熱(溶連菌)の発症率が激減しており、現在ほとんど見かけないので、この分類の意味は薄いでしょう。

他にも、特定の疾患の誘引がなく発症した心房細動(孤立性心房細動)と、僧帽弁閉鎖不全症などから発症した心房細動(二次性心房細動)という分類もあります。

心房細動の治療

心房細動の治療には、状況に応じて治療方針が検討されます。心房細動において特に考えるべきことは、〝血栓予防〟〝レートコントロール〟〝リズムコントロール〟〝血栓予防〟となります。以下に説明をします。

血栓予防

心房細動になると心房は細かく震えているだけの状態となり、心房内の血流はよどんでしまいます。
その結果心房内に血栓が出現し、これが抹消に飛散することで脳梗塞や血栓症が発症します。
血栓予防のための経口抗凝固薬として、ワーファリンとDOACがあります。
この抗凝固療法においては、出血のリスクを常に検討し慎重な投与が必要であるため、医師の指示を守ることが大事です。

リズムコントロール

リズムコントロールには、不整脈そのものに対する治療になります。具体的には抗不整脈薬治療、電気的除細動、アブレーション治療があります。

そもそも不整脈が起こらないようにする治療ということだね。だけど、そもそもどうして不整脈になるんだろう?

正常な洞調律を刻んでいる限り突然心房細動などの不整脈になることはなかなかありません。
基礎疾患や加齢、生活習慣などの素地があって心房細動は発症しやすくなります。
そして期外収縮をきっかけに心房細動に移行することが臨床上よく見られます。

ここでは抗不整脈薬治療についてのみお話します。

抗不整脈薬の治療には、上室性不整脈に効果があるもの、心室性不整脈に効果があるもの、洞結節の興奮を抑制するもの、房室結節の伝導を抑制するもの、さらには心収縮増強付加のあるものや降圧作用も同時に起こるものなどさまざまです。

これらをイオンチャネルの作用部位などで分類したものが、Vaughan Williams 分類やSicilian Gambit があります。
いずれにしろ専門的な知識が必要となるので、医師の指示に従って使用するものとなります。

レートコントロール

心房細動では、非常に遅い脈の場合もありますが、逆に速い脈拍となる場合もあります。
これは心房細動だから速い遅いというわけではなく、房室伝導の通過の程度や自律神経の影響を受けて脈拍が決まります。
心房側の無秩序な興奮が房室結節におりてきたとき、房室結節が伝導を通過させやすかったり不応期が短かったりすると過剰に心室に興奮を伝えてしまいます。その結果、心拍数は高くなります。

逆に房室伝導が不良の場合、いくら心房からの興奮が来ても房室結節付近でブロックしてしまい、心拍数が遅いということになります。
脈が遅すぎても心拍出量を担保できなければふらつきや意識消失をおこします。
脈が速すぎると、心機能低下症例では心不全となる可能性があります。

脈は速すぎても遅すぎてもだめなんだね

この心拍を調整する治療がレートコントロールになります。

心房細動の血行動態

心房細動になると、血圧とかの血行動態ってどうなるの?

本来、心房の収縮によって十分な量の血液が心室に送られることで、効率のよい拍出が得られます。
心房細動によって心房の収縮がなくなると、心房と心室での相互的で効率のよい拍出が期待できなくなります。
一般的に心房細動になると、洞調律時に比べて何割かの心拍出量が低下するといわれています。

P波はなくても、f波はあるんでしょう?規則正しくなくても、心房はそれなりに拍出しているんじゃないの?

心房細動になると、心房は文字通り〝細かく震えているだけ〟になり拍出には寄与していません。
その証拠に、心房細動を放置しておくと、心房内に血栓が発生します。これは心房内に血流の停滞している場所があることを示しており、通常心房細動のない人の心臓には血栓は現れません。

心房の役目は以下となります。
①心室に送るための血液を貯めておく。
②心房収縮(エイトリアルキック)によって心室に血液を送り込む、いわゆるブースターポンプと呼ばれる能動的な収縮。

心房細動になると①の血液を貯めておくという受動的な機能は残りますが、②の能動的な収縮機能はなくなります。
効率的な拍出ができなくなると、心拍出量の低下から身体症状が現れる可能性が出てきます。

電気生理学的心房細動の分類

  • TYPEⅠ 単一の興奮が伝導遅延やブロックがなく伝搬する心房細動
  • TYPEⅡ TYPEⅠとⅡの間
  • TYPEⅢ 複数の興奮が伝導遅延やブロックを伴ってランダムに興奮する心房細動

なんか急に難しい話になってきた

f波が十二誘導のうち、なぜV1でよく見られるのか

これについて考えるためには、十二誘導心電図のそれぞれの誘導がどういった意味を持つのかを考える必要があります。

四肢誘導は離れた二点間の電位差を見ているので、心臓の興奮の大きなベクトルを見ています。
すわなち統一性を持った興奮を反映しています。

それに対して胸部誘導は、貼られた電極の局所電位を反映します。
心房細動というのは、心房の興奮に統一性を持たない無秩序の興奮と言われているので、四肢誘導上では波高として観察しにくくなります。

しかし心房に近いV1誘導などでは心房に最も近いところに電極が貼ってあるので、心房興奮を反映しやすいということになります。

心房細動の心拍数はどうして頻脈だったり徐脈だったりするのか

これは房室結節の伝導能に左右されます。
この伝導能は交感神経や副交感神経の影響を受けます。

また加齢やストレス、生活習慣なども交感神経などに影響を与えるので、それらの結果を受けて心拍数が決まります。

とはいえ、これらの因子がさまざまなバランスにって影響を与え合うので単純な理解ではあてはまりません。
ですので単純な理解としては、〝房室伝導能による〟という考え方でよいかと思われます。

心房細動ってQRSの形は一緒なの?なんだか形が違うときがあるのだけど

実はQRSの形が異なって出ることがあります。
特に頻脈時にしばしば見られますが、これは不顕伝導や心室内変行伝導だったりします。

なんか難しそうな単語が出てきた

不顕伝導についてなるべく容易な表現で説明をします。
上室、すわなち心房からの興奮が心室に伝わるとき、実はその一拍前の興奮の影響を受けて心室の一部に不応期が残っている場合があります。

心室の一部にだけ不応期が残っている状態で心房から心室へと興奮が伝わるとどうなるのでしょうか。
不応期を脱している心室筋は興奮しますが、不応期が残っている心室筋は興奮しません。
この結果QRSの波形が若干変形して現れます。
心筋のどの部分に不応期が残っているか目には見えないので、顕性ではないという意味で不顕伝導という表現をします。

これがさらに見た目上はっきりと幅広のQRSとなった場合、心室内変行伝導となっていると考えられます。

まとめ

心房細動は医療の現場でしばしばみられる不整脈です。
心房細動と一口にいっても、考えるべきことが多い奥の深い不整脈です。

臨床的にも、脳梗塞のリスクや心不全の移行のおそれもある疾患ですが、年齢とともに発症率が高くなり、また無症状であったりするため放置されがちです。

早期に発見できればその心房細動を洞結節リズムに戻しやすくなりますし、根本治療に向かっていけます。
しかし長らく放置すればするほど完治の難しくなるものなので、早期の発見とコントロールが望まれます。

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