素朴な疑問だけど、心電図ってそもそもなにものなんだろう?
病棟の看護師などの医療従事者は普段当たり前に接している心電図だと思いますが、改めて問われると意外とその原理を知らないという人も多いと思います。今回は心電図の本質を筆者なりの経験と個人的感想を含めた内容でお伝えします。
※今回の内容は、医療に携わったことがあり心電図に興味がある方向けとなっています
心電図は心臓の電気信号をみている
最も易しい表現を使うなら、「心電図は心臓の電気信号をみている」ということになります
ヒトは生きている限り心臓が拍動を続けていますよね
それは首や手首の動脈の脈拍に触れることで確認できます
心臓は絶えず収縮と拡張を繰り返しています
そのとき心筋の興奮は微弱ながら電気活動が生じています
心電図ではその小さな電気を増幅させて、波形として表しています
よく勘違いされる事柄の一つに、「心電図は刺激伝導系の電気を表現している」というものがあります
これは誤りです
刺激伝導系を伝わる興奮は微弱すぎるため、体表面からは検知することができません
心臓が収縮を始めるころには、刺激伝導系レベルではすでに抹消のプルキンエ線維まで興奮が伝わっています
※刺激伝導系というものを聞いたことがない方には、改めて別のテーマでお話する予定です
体表面って?
体表面というのは、体表、すなわち体の表面のことです
意味合いとしては〝皮膚を介して〟ということになります
これに対して血管内からアプローチして、心臓の中から直接心電図を得るものがあります
これを心内心電図といいます
電気抵抗の高い皮膚から得られる心電図では限界があるので、心臓の中から心電情報が得られれば、より詳しい心電図の情報を得ることができるのです
※心内心電図に関しては、また少し違うジャンルのお話になるのでここでは触れません
心電図は二点間の電位差をみている
なんだか一気に難しい話になりそう・・・
そこまで難しい話ではありません
電気は、回路といって円環になっていないと電流の流れが形成したり計測することができないため、回路にするために二つの電極を貼る必要があるということです
乾電池の電圧をテスターで測定するときに、+極と-極の二か所で回路にして計測しているというのがイメージに近いような気がします
実際には、微弱な心電情報を得るための差動増幅回路、体動や商用交流を遮断するための各種フィルタなど複雑な仕組みになっています
あ そのお話は大丈夫です(回路とかフィルタとか全然わからない)
心電図といえば標準十二誘導心電図
心電図とひとくちにいっても、モニター心電図・ホルター心電図・運動負荷試験心電図などいろいろな種類の心電図があります
その中でも心電図検査といえば標準十二誘導心電図といえます
標準十二誘導心電図とは、両手両足の四か所と胸部の六ケ所に電極を貼り、そこから十二の波形を抽出して心臓の電気的な現象を記録したものとなります
どうしてそんなに電極を貼るの?
よくインターネットなどで心臓をイメージしたイラストなどを見かけますよね
さらには、心臓の刺激伝導系がどのような経路で伝わっているかの図などもよく見かけます
簡略化されたものは、概要として理解するためにはいいものかもしれません
しかし心臓というものは本来もっと複雑なものです
立体構造であり、四つの内腔を有していて、心房と心室で構造が異なるうえに左右の心室でも心筋量などが異なっています
刺激の伝わる速度が異なっていたり、刺激がどこをどう伝わっているのか、わかっていることもありますがわかっていないことも多いのです
本来そこまで知っていなくても心電図で疾患を判定することはできます
ですがそういった心臓の特性を知ると、より本質的な理解ができます
そのためには見た目が簡単に作られた図ではなく、より三次元的なイメージが必要と筆者は考えています
心臓の立体構造と電気的活動は本来複雑
複雑な心臓の電気的活動を知るために、さまざまな角度から心臓の興奮を見る必要があります
電極をたくさん貼るのはそのためです
なんだかめちゃめちゃ難しそう・・・
確かに心臓についてすべてを理解しようとすることはそもそも不可能ですしおこがましいことです
神でもなければ真に理解することなどできないでしょう
二点間の電位差=電気的ベクトルをみている
さきほど心電図は二点間の電位差をみているといいました
これはいいかえると、「心臓の電気的活動の進み具合(ベクトル)をみている」ということになります
つまり標準十二誘導心電図は、端的にいえば
心臓の電気的ベクトルを十二の角度からみている
だけに過ぎません
複雑な心臓の電気的な活動をさまざまな角度からみて、心臓の神秘に触れてみようというわけです
心臓を十二の角度からみるといっても、だいたいどの誘導がどこをみているか決まっています
心臓を下からみている誘導が三つ、心臓の左側面からみる誘導が二つ、それから心臓の水平面上で部分的にみる誘導があります
一つの誘導(波形)だけではとらえられないものでも、いくつかの波形をみることでさまざまなことがわかります
この見方が役に立つのは、心筋梗塞などの心筋の虚血判定のときです
さまざまな角度から心臓をとらえることにより、心筋のどこがどのくらいの範囲で詰まっているのか、はたまた詰まりかかっているのか、詰まってどれほどの時間が経過しているのか、心筋がどれほど元気なのか(これを心筋のバイアビリティといいます)などを読み解くことができます
また十二の誘導のなかには、心房波が確認できます
この心房波(P波)と心室波(QRS波)の関係を知ることで、洞結節や房室結節の伝導能の評価ができたりと、その有用性は多岐にわたります
このサイトで勉強したら、そういうのわかるようになるの?
もちろんこのサイトでなくても、参考書でもなんでも知識的なことは身につくと思います
しかしそういった経験や感覚は、臨床の現場で覚えたほうが記憶に残ります
本当の意味での経験は本やインターネットだけでは身につかないので、普段目にする心電図に興味をもってもらいたいです
このサイトが、そんな臨床の場で興味をもって心電図に接するきっかけとなってくれることを一番の目的としています